副腎腫瘍(クッシング症候群)
病態
クッシング症候群と呼ばれる病気の分類の一つに副腎の腫瘍があります。
クッシング症候群は犬で多く、その中で副腎が腫瘍化するものは全体の2割程度と言われています。(副腎腫瘍)
今回は下垂体性副腎腫瘍(PDHと言われます)のご紹介をします。
診断
臨床症状の有無が最大の焦点となります。
症状:多飲多尿、多食、脱毛、腹囲膨満、呼吸が荒いなど
血液検査、腹部超音波検査などによるスクリーニング検査で疑わしい症例は、ACTH刺激試験・LDDSTという血液検査を行います。
正常な副腎は6mm以下ですが、下の写真の子は両側副腎が10mmに腫大しています。
治療
内科治療と外科治療に分けられます。通常PDHは内科治療で維持されることが多いです。
副腎に腫瘍が形成された場合は副腎の摘出が選択されるケースが多いですが、副腎からはアドレナリンが血中に分泌されており、全身麻酔・手術などで過剰に分泌されてしまうと不整脈や心停止などが起こるケースがあり、リスクの高い手術になります。
手術のメリットデメリットを十分理解した上で決定する必要があります。
移行上皮癌
病態
膀胱に発生することが多い腫瘍です。
老齢の犬に多くみられ、メス犬に多く発生する傾向があります。
症状は、血尿や頻尿、痛みを伴う排尿困難など、膀胱炎の症状に似ています。
診断
年齢等を考慮し、膀胱炎との区別が必要になります。
画像検査(レントゲン、エコー)や、尿検査などを行います。
治療
早期に発見した場合は腫瘍を切除します。
症状が進行し、手術が行えない場合は、内科的治療を行います。
リンパ腫
病態
リンパ腫は癌化したリンパ球が病変を作る血液がんの一つです。
いくつかのタイプがあり、その一つを消化器型リンパ腫と言います。
胃に発生することもあり、胃の壁が分厚くなり食事を取れない状態になるケースもあります。
診断
針で細胞を吸引し、顕微鏡で観察、又は病理検査で、腫瘍性リンパ球が存在しないか確認します。
治療
ビンクリスチン、サイクロフォスファマイド、アドリアマイシン、プレドニゾロン、L-アスパラギナーゼと言った抗がん剤がメインとなりますが、副作用の少ない抗がん剤もございます。
治療は状態に応じていくつも方法がありますので、まずはご相談下さい。
口腔腫瘍
病態
口の中に「できもの」ができること全般を指します。
発生場所は口唇、扁桃、舌、口腔粘膜、唾液腺等があります。
口腔内にできる腫瘍は悪性黒色腫(メラノーマ)、扁平上皮癌などの予後が悪いものも多いです。
診断
悪性黒色腫(メラノーマ)は色素を持って黒っぽく見えることが多いですが、肉眼所見だけでは確実な診断はできないので、「生検」(組織を針で刺したり、一部切除する事)を行ない診断をつけます。
同時に肺や内臓への転移がないか、骨を溶かしていないか、全身の状態は大丈夫か、などを確認するために、レントゲンや血液検査を行うことが多いです。
治療
上記の「できもの」は良性のもの、悪性のものがあります。
見た目だけの判断は難しいことが分かるでしょうか。
「生検」結果に伴い治療を決めていきます。
手術
切除生検時の写真を載せています。
病理検査結果では「扁平上皮癌」「線維性エプリス」「メラノーマ」でした。
脾臓腫瘍
病態
脾臓とは左脇腹にある臓器です。中高齢の動物で「がん化」することがあります。
脾臓に腫瘤が形成される場合、約半数が良性で半数が悪性と言われています。
悪性病変のうち2/3が血管肉腫と呼ばれる、予後の悪いがんであると言われています。
診断
腹部の触診とレントゲン、腹部超音波検査で発見されるケースが多いです。
腫瘤が偶然見つかるケースと、お腹で破裂を起こして見つかるケースがあります。
血液検査、レントゲン、身体検査などで貧血の程度や遠隔転移の有無を判定する必要もあります。
治療
偶然見つかった場合は、腫瘤の大きさを定期的に確認する必要があります。
皮膜を越えて大きくなった脾臓腫瘍は破裂の可能性が高く、良性でも破裂することがあるので脾臓の摘出手術が適応になります。
摘出した脾臓を病理検査することで確定診断となります。
悪性腫瘍であった場合、手術後に抗がん剤による治療が必要になります。
良性であれば摘出後は通常通り生活でき、脾臓がなくとも問題ないと言われています。
脾臓尾部が腫瘍化して、破裂し体調不良となった症例
病理
脾臓:結節性過形成(良性)
この子は良性なので、特に追加治療は必要ありませんでした。
軟部組織肉腫
病態
皮膚と皮下組織の腫瘍の中で、多く発生する腫瘍です。
軟部組織肉腫とは、浸潤・再発が強く、転移は比較的しにくいという傾向がある腫瘍をまとめた名称です。
診断
触診と細胞診(針を刺して細胞を見る検査)をして、紡錘形と言われる細胞を採取して、顕微鏡で観察し診断します。確定診断には組織を一部切除する「生検」が必要となります。
治療
外科切除が基本的な治療法です。
発生した場所によっては広く切除できないこともあるので、再発のリスクは相談しながら治療することが多いです。
写真の子は腫瘍が自壊(壊れて出血する事)して断脚手術を行いました。
病理結果:血管周皮腫(軟部組織肉腫の代表格です)
脚を切ることは辛い治療ですが、術後2週間で3本足で歩けるようになりました。
術後1年元気で暮らしています。
肥満細胞腫
病態
犬や猫に多発する腫瘍で、特に犬の皮膚腫瘍では最も発生が多く、猫の皮膚腫瘍では2番目に発生が多いのがこの「肥満細胞腫」です。
また加齢とともに、発生頻度が高くなる傾向があります。
皮膚には「しこり」ができて、見た目や触診だけでは脂肪腫などの良性腫瘍とはっきり区別がつきません。
発生場所や「悪性度」(癌の悪さ)で治療方針が大きく異なります。
肥満細胞種の外観例
診断
前述の様に視診(見た目)や触診(触り心地)のみでは診断困難のため、針吸引で細胞を採取し、顕微鏡で以下のような細胞を見つけ診断します。
治療
外科的切除、化学療法、放射線療法などが主な治療法となります。
外科手術では可能な範囲で広く切除することが推奨されています。
手術後の「病理検査」で肥満細胞腫の「悪性度」を判定し、補助療法の必要性を検討します。
皮膚組織球種
病態
皮膚と皮下組織の腫瘍の中で、多く発生する良性腫瘍です。
赤色ドーム状のものが多く、直径は1~2cmです。
多くは若齢犬の頭部や耳介、四肢に発生します。
診断
典型的な見た目に加え、細胞診(針を刺して細胞を見る検査)で診断します。
治療
特に治療は必要がなく、通常は3ヵ月以内に自然退縮します。
小さくならない場合や、動物が気にする場合のみ切除を検討します。
扁平上皮癌
病態
皮膚扁平上皮癌
初期には、表皮の日焼けした部分に皮膚炎が起こり、被毛が抜け皮膚の白い部分に病巣が発生します。
犬では、頭部と腹部、爪床(爪の根元)によく発生します。
猫では、耳翼、瞼、鼻鏡部に発生し、眼青色の白被毛の猫によくみられるといわれています。
口腔内扁平上皮癌
口腔内の腫瘍では発生頻度が非常に高いと言われています。
転移は少ないですが、局所浸潤性(骨を溶かす)が強く、痛みを伴う場合もあります。
症例
爪床にできた扁平上皮癌の治療例です。
右足の痛み(足を上げている)で来院されました。
右足の指(写真一番左)が腫れており、レントゲン写真では反対(正常)と比較すると骨融解(骨が崩れ溶けている)が見られます。
治療は切除が適応となり、切除後の病理検査で扁平上皮癌と確定しました。
現在は再発・転移もなく、経過良好です。